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1995 東京大学 後期

文科Ⅱ論文ⅡB

易□ 並□ 難□

【1】 会社にとって,ある品物の需要があったときにただちにその要求にこたえるためには,品物をある程度蓄えておかなければならない.この蓄えられた品物を在庫という.

 品物を在庫として維持するには,倉庫経費,保険料,保守費用など様々な費用がかかる.この費用を在庫維持費用という.品切れを恐れるあまり多量に品物を発注してしまえば,その分多額の在庫維持費用がかかってしまうことになる.

 一方,在庫がまったくなくなってしまい,入手するのにかなりの時間を要することになれば,そのときに受ける損失はしばしば大きいことになる.この損失を品切れ費用という.在庫維持費用を気にするあまり品物の発注を少量に抑えてしまえば,その分品切れ費用がかかってしまうことになる.

 こうして考えてみると,発注量をむやみに多くすることも,また反対に少なくすることも望ましくない.そこで,以下のように簡単なモデル[Ⅰ],[Ⅱ]を想定して,どの程度の発注量が適切なのかを考えてみたいと思う.[Ⅰ]では品切れを許さない場合が,また[Ⅱ]では品切れを許す場合が扱われている.

1995102610401の図

図1.品切れを許さない場合
の在庫量のグラフ

[Ⅰ] はじめに,在庫量がゼロになった時点で品物が発注されただちに納入されると仮定して考えてみよう.また品物の需要については時間的に一定で,従って在庫量は時間的に一定の割合で減っていくものとする.縦軸に在庫量,横軸に時間をとって,この状況をグラフに表したものが図1である.在庫量は,発注されたときに発注量だけ増え,その後徐々に減っていきゼロになった時点で再び発注されるというサイクルを繰り返していくことがわかると思う.

  1 年間に a 個の需要があることがわかっているとすると, 1 回に x 個の発注を行うと 1 年間には a /x 回の発注を行うことになる.簡単のために,以下の問いにおいては, a x a/x などの値は特に自然数に限ることはせず,実数として取り扱うことにする.

〔問1〕  1 サイクルの平均在庫量を 1 年間の平均在庫量とみなすことにする.年間平均在庫量を求めよ.品物 1 個あたりの年間在庫維持費用を h 円とするとき,年間在庫維持費用を求めよ.

  1 回の発注には運搬費など k 円の費用がかかるものとすると,もしその発注費用が高ければ,できるだけ発注回数を少なくすることが望まれる.そこで在庫維持費用も考慮にいれて,年間発注費用と年間在庫維持費用の和を年間総費用として C 1 で表すことにする.私たちの目的は,その年間総費用 C 1 をできるだけ小さくするような発注量 x を求めることになる.

〔問2〕 年間発注費用と年間総費用 C 1 を求めよ.

〔問3〕  a h k は与えられている定数とし,発注量 x が調整できる変数とする.年間総費用 C 1 を最小にする x の値 x 1* 及びその時の最小年間総費用 C1* を求めよ.また,年間在庫維持費用と年間発注費用を x の関数としたとき,それぞれのグラフを図示し,その図の x 軸上に x1* の点を表示せよ.

〔問4〕  1 個あたりの年間在庫維持費用 h をゼロに近づけるときと, 1 回あたりの発注費用 k をゼロに近づけるときの 2 つの場合に, x1 * はそれぞれどういう値に近づき,そのことは何を意味しているのかを説明せよ.

1995102610401の図

図2.品切れを許す場合
の在庫量のグラフ

[Ⅱ] 次に,品切れの期間が生ずることを許したモデルを考えてみよう.需要は時間的に一定で,在庫量は一定量ずつ減少していき,ある時点で在庫がなくなり,やがて品切れの状態となる.しかし,なお同じ一定量の需要が続き,品切れ量が一定量ずつ増加していくことになる.この品切れ量が y に達した時点で x だけ発注し,しかもただちに納入されると仮定しよう.品切れ量を負の在庫量と考えて,在庫量の時間的変化をグラフに表示したのが図2である.

 品切れに対しては当然損失が生ずるはずで,これを品切れ費用という.品物 1 個当たりの年間品切れ費用を l 円としよう.また,年間総需要, 1 個あたりの年間在庫維持費用, 1 回あたりの発注費用はそれぞれ a 個, h 円, k 円で与えられているとする.[Ⅰ]の場合と同様に, 1 サイクルの平均在庫量を 1 年間の平均在庫量とみなすことにする.

〔問5〕 年間在庫維持費用と年間品切れ費用を求めよ.

〔問6〕 年間発注費用と年間在庫維持費用と年間品切れ費用の和を,年間総費用 C 2 とする. C2 x の関数とみなし, C2 を最小にする x の値 x2* とそのときの最小費用 C2* を求めよ. y をゼロに近づけると, x2 * C 2* はどのような値に近づくかを述べよ.

〔問7〕 〔問6〕で求めた C2* y の関数になっている.そこで C2* をさらに y に関して最小にすることを考えてみよう.

(a)  A B A >0 B> 1 なる定数とする.すべての正の実数 z に対して

A+B z- z A (B -1) B

なる不等式が成り立つことを示せ.また,等号が成り立つときの z の値を求めよ.

(b) (a)で示した不等式を用いて, C2 * を最小にする y の値 y * とそのときの最小総費用 C2** を求めよ.

(c)  C2 ** は[Ⅰ]の方法で得られた最小総費用 C 1* よりつねに小さいことを示せ. C2 ** C 1* に近づくのは,品切れ費用 l がどんな値に近づくときなのかを述べよ.

1995 東京大学 後期

文科Ⅱ論文ⅡB

易□ 並□ 難□

【2】 次の文章を読み,〔問1〕〜〔問6〕に答えよ.

 高卒後,あるいは大学進学後,あるコンピューター企業へ就職する一群の学生がいる.学歴にかかわらず,学生はコンピューターの処理能力の低いもの(グループ1)と高いもの(グループ2)とに分かれる.残念ながら大学教育は,学生のコンピューター処理能力を高めることも低めることも出来ない.グループ2の学生は,一生働けば(様々なコストを控除した後) 10 億円の仕事をすることが出来る.グループ1の学生は, 1000 万円の仕事(以下,生産性)をすることが出来る.学生を雇う企業は,学生がどちらのグループに属するか直接見極める方法がないとする.

 高校を卒業した時点で学生は直ちに就職するか,大学に進むかの選択をする.いずれにせよ,このコンピューター企業以外の就職の可能性は無いものとする.学生の学歴に関する選択は,就職した場合に得られるであろう生涯賃金から大学に進むのに必要な資金を引いた差額をなるべく大きくするように決定される.多数の大学が有り,それぞれはだれにもわかるようなランキング付けがなされている.大学のランキングを y という記号で示す.簡単のため, 0 かすべての正の実数 y について,それに対応する大学が有り, y=0 は高卒にあたり, y が高くなるほど“良い”大学であると信じられているとする.

 各大学とも,合格するためには,塾に行く等の準備が必要であり,お金がかかる.グループ1の学生はランキング y の大学に合格するためには, 9y 億円の資金が必要である.グループ2の学生は,同じ y に合格するのに 3 y 億円の資金で済む.いずれもこれらの資金を払えば,確率 1 でその大学に合格する.世の中には, s の割合だけグループ1の学生が存在し,残りの 1 -s はグループ2に属する.

 以上をまとめると,

グループ 生 産 性 存 在 比 率 大学合格に

要する資金
0.1 s 9y
10 1-s 3y

 繰り返すと,学生も企業もこの表の情報を知っている.ただし,企業は各学生がどちらのグループに属するかを直接知ることは出来ない.これに対して,学歴はコスト無しに判明する.一方,学生は,既に高卒の時点で,自分がどちらのグループに属するかを知っている.

(ケース1) 企業は,学生がある y * と同じか,それを越える学歴を有していれば,確実にその学生はグループ2に属し, y* よりも下のランキングの大学卒であれば,確実にグループ1に属すると信じているとしよう.グループ2に属すると考える学生には, 10 億円の,グループ1に属すると考える学生には, 0.1 億円の生涯賃金を約束する.企業のこのような行動,および y * を学生は知っているとする.

〔問1〕  y* よりもランキングが下の大学を選ぶ学生はすべて y =0 すなわち大学には行かないこと,また y * と同じかそれ以上の大学を選ぼうとする学生は,皆ちょうど y * の大学に入学しようとすることを示せ.

〔問2〕 企業の選ぶ y * が,ある条件を満たせば,企業が思うとおり, y* 以下の学歴の学生はグループ1に属し, y* 以上の学歴の学生はグループ2に属することを証明せよ.

〔問3〕 仮に大学という制度が無ければ,企業はすべての学生にその生産性の期待値を生涯賃金として払うものとする. s=1 /4 の時, y* が〔問2〕の条件を満たしていれば,すべての学生が大学制度の存在によって損をすることを証明せよ.

(ケース2) 以上の(ケース1)とは異なり,企業が次のような仮定で行動しているとする.学生の学歴が y * より下なら,確率 s でグループ1の学生であり,確率 1 -s でグループ2の学生である.学歴が y * と同じかそれ以上なら確率 1 でグループ2の学生である.(ケース1)と同じように, y* の値を含めて,このような企業行動を学生は知っているとする.

〔問4〕 この時,各学生にたいして企業はどのような生涯賃金を約束すると考えるのがもっともらしいか.

〔問5〕 〔問4〕のように賃金が決まるとき, s y * の値によっては,誰も大学に進学しない可能性がある.そのような s y * に関する条件を求めよ.また,その時,学生の受けとる生涯賃金はいくらか.

 (ケース1)及び(ケース2)の結果を用いて次の問いに答えよ.

〔問6〕 学生が男子学生と女子学生に分かれるとする.男子,女子,それぞれについて先の表を作成すると,両者でまったく同じものになるとする.企業はこのことを知っており,さらに学生の性別はコスト無しに知る事が出来るととする.しかし,男子の大学進学率は女子のそれより高かったとする.このような現象を,〔問1〕〜〔問5〕の結果を参考にしつつ解釈してみよ.

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