1996 東京大学 後期文科Ⅱ論文ⅡBMathJax

Mathematics

Examination

Test

Archives

1996 東京大学 後期

文科Ⅱ論文ⅡB

易□ 並□ 難□
1996年東京大後期文科Ⅱ類【1】の図

【1】[Ⅰ] 右に行くと食物,左に行くと電気ショックを与えるような図のような T 字型迷路で,これまで何回か,ネズミを使って繰り返し実験を行った.

 こうした実験の結果,次のことがわかった.

 第 1 回の実験では,ネズミが右に行くか,左に行くかは同じ確率 0.5 である.

 第 i 回の実験で,ネズミが食物にありつけた後は,第 i +1 回の実験で右に行く確率は 0.7 左に行く確率は 0.3 になる.

 第 i 回の実験で,ネズミが電気ショックを受けた後は,第 i +1 回の実験で右に行く確率は 0.8 左に行く確率は, 0.2 になる.

 これらの結果をもとにして,ネズミを使った同じ実験を行うことを考えてみよう. から,第 1 回の実験で,ネズミが右に行く確率も左に行く確率も,ともに 0.5 であるから,第 2 回の実験で,ネズミが右に行く確率は ②, から,

0.5×0.7 +0.5× 0.8=0.75

ネズミが左に行く確率は同様に ②, から,

0.5×0.3 +0.5× 0.2=0.25

のように計算して求めることができる.

(1) 第 3 回の実験で,ネズミが右に行く確率を求めなさい.

(2) いま,第 t 回の実験で,右に行く確率を p1 (t ) とし,左に行く確率を p2 (t ) とする.また,第 t +1 回の実験で,右に行く確率を p1 (t+ 1) とし,左に行く確率を p2 (t+ 1) とする.このとき,二つのベクトル

( p1 (t) p2 ( t) ) ( p1 (t+ 1) p2 (t +1) )

の関係を行列の演算の形で表しなさい.

(3) ネズミではなく,サルを対象にして,全く同じ実験を行ったところ,実験の結果のうち については同じ結果になった.しかし については,今度は右に行く確率が 1 左に行く確率が 0 であることがわかった.

 第 t +1 回の実験で,サルが右に行く確率を求めなさい.

[Ⅱ] 人間を対象として,次のような二つの代替的な行動 A B の間で行動を何回か選択させる実験を考えよう.

(ⅰ) 行動 A が選択されれば,確率 a で報酬 R が与えられるが,確率 1 -a で報酬は与えられない.

(ⅱ) 行動 B が選択されれば,確率 b で報酬 R が与えられるが,確率 1 -b で報酬は与えられない.

ただし, 0a 1 0 b1 である.

 いま人間が,「報酬 R が得られれば,次回も必ず同じ行動をとるが,報酬 R が得られなければ,次回は必ず違う行動をとる」という行動原理に基づいて行動を選択しているとしよう.

(4) 第 t 回の実験で,行動 A をとる確率を p1 (t ) とし,行動 B をとる確率を p2 (t ) とする.また,第 t +1 回の実験で,行動 A をとる確率を p1 (t+ 1) とし,行動 B をとる確率を p2 (t+ 1) とする.このとき,二つのベクトル

( p1 (t) p2 ( t) ) ( p1 (t +1) p2 ( t+1) )

の関係を行列の演算の形で表しなさい.

(5)  p1 (t +1) =p1 (t )= p1* p2 (t +1) =p2 (t )= p2* であるとき,ベクトル ( p1 * p2 * ) は定常状態であるといわれる. p1 * p 2* を求めなさい.

(6) 「確率 q で行動 A をとり,確率 1 -q で行動 B をとる」という行動原理を考える.このとき,報酬の期待値が最大になるような q を求めなさい.ただし, 0q 1 である.

1996 東京大学 後期

文科Ⅱ論文ⅡB

易□ 並□ 難□

【2】[Ⅰ] テーブルの上に 3 つの皿がのっているとする.これらの皿を,それぞれ皿 A B C と呼ぶことにする.皿 A には,リンゴが 4 個とみかんが 1 個,皿 B には,りんごが 1 個とみかんが 4 個,皿 C にはりんごが 2 個とみかんが 3 個のっているとする.ベクトルで表せば,それぞれの皿は ( 4,1 ) ( 1,4) ( 2,3 ) となる.もちろんここでベクトルの第 1 要素はりんごの個数,第 2 要素はみかんの個数を表す.ここで,以下の 3 つの選択を考える.

選択1:皿 A あるいは皿 B のどちらか 1 つを選ぶ.

選択2:皿 B あるいは皿 C のどちらか 1 つを選ぶ.

選択3:皿 A あるいは皿 C のどちらか 1 つを選ぶ.

 さて, X 氏は選択1では皿 A を,選択2では皿 B を,選択3では皿 A を選んだとする.次に, X 氏の選択行動を関数の最大化により選択することを考えよう.つまり, X 氏のりんごとみかんを食べることによる満足度を実数で表し,それの最大化により彼の選択行動を説明することを考える.具体的には,まず X 氏の満足度を集合 { (4, 1), (1, 4), (2, 3) } から実数への関数 u で表現する.(このような関数を経済学では効用関数と言う.)たとえば, (4 ,1) の満足度を 3 (1 ,4) の満足度を 2 (2 ,3) の満足度を 1 とおいてみる.つまり, u( 4,1) =3 u (1, 4)= 2 u (2, 3)= 1 とすることになる.このようにすれば, X 氏は選択1では皿 A の満足度(効用関数 u の値)は 3 B の満足度は 2 だから満足度の高い皿 A を選んだと考えることができる.同様に,選択2では皿 B の満足度は 2 C の満足度は 1 だから皿 B を選び,選択3では皿 A の満足度は 3 C の満足度は 1 だから皿 A を選んだと考えることができる.このようにすれば,満足度を表す関数(効用関数) u により X 氏の選択行動を説明できることになる.

(1)  Y 氏は,選択1では皿 B 選択2では皿 C 選択3では皿 C を選んだとする. Y 氏の選択行動を満足度を表す関数(効用関数)で説明できるか.説明できる場合は満足度を表す関数を 1 つ書け.説明できない場合は,なぜできないか理由を書け.

[Ⅱ] 少し一般的に考えてみよう. 3 つの皿があるとする.これらの皿を,それぞれ,皿ア,皿イ,皿ウと呼ぶことにする.皿アには,リンゴが x 1 個とみかんが y 1 個,皿イには,リンゴが x 2 個とみかんが y 2 個,皿ウには,リンゴが x 3 個とみかんが y 3 個のっているとする.ベクトルで表せば,それぞれ ( x1, y1 ) ( x2, y2 ) ( x3, y3 ) となる.(ただし,これらのベクトルは互いに異なるとする.また,これらのベクトルの要素は 0 以上の整数とする.)今度は,次の選択を考えてみよう.

選択1:皿アあるいは皿イのどちらか 1 つを選ぶ.

選択2:皿イあるいは皿ウのどちらか 1 つを選ぶ.

選択3:皿ウあるいは皿アのどちらか 1 つを選ぶ.

  X 氏が,選択1で皿アすなわち ( x1, y1 ) を選んだときは

(ⅰ)  (x 1,y 1) ( x2, y2)

と書き,逆に選択1で皿イすなわち ( x2, y2 ) を選んだときは

(ⅱ)  (x 2,y 2) ( x1, y1 )

と書くことにする.(ここで,(ⅰ)あるいは(ⅱ)のどちらか 1 つだけ成立する.)同様に X 氏が,選択2で皿イすなわち ( x2, y2 ) を選んだときは

(ⅲ)  (x 2,y 2) ( x3, y3 )

と書き,また逆に選択2で皿ウすなわち ( x3, y3 ) を選んだときは

(ⅳ)  (x 3,y 3) ( x2, y2 )

と書くことにする.(ここで,(ⅲ)あるいは(ⅳ)のどちらか 1 つだけ成立する.)同様に X 氏が,選択3で皿ウすなわち ( x3, y3 ) を選んだときは

(ⅴ)  (x 3,y 3) ( x1, y1 )

と書き,また逆に選択3で皿アを選んだときは

(ⅵ)  (x 1,y 1) ( x3, y3 )

と書くことにする.(ここで,(ⅴ)あるいは(ⅵ)のどちらか 1 つだけ成立する.)

 効用関数 u

すべての (x,y ) (x , y ) {( x1, y1) ,( x2, y2) ,(x 3,y 3) } について,

( x,y) (x , y ) ならば u (x ,y) >u ( x ,y )

を満たす関数

と定義する.(ここで, u { (x 1,y 1) ,( x2, y2 ),( x3, y3 )} から実数への関数.)

 次に以下を満たす i j k (ここで i ,j,k { 1,2, 3} )が存在するとき, はサイクルを持つという.

(x i,y i) ( xj, yj )

(x j,y j) ( xk, yk)

(x k,y k) ( xi, yi)

(2) この場合, がサイクルを持たないことが,効用関数が存在するための必要十分条件になっていることを証明せよ.

[Ⅲ] 次に, 4 つの皿があるとする.これらの皿を,それぞれ,皿 1 2 3 4 と呼ぶことにする.皿 1 には,りんごが s 1 個とみかんが t 1 個,皿 2 には,りんごが s 2 個とみかんが t 2 個,皿 3 には,りんごが s 3 個とみかんが t 3 個,皿 4 には,りんごが s 4 個とみかんが t 4 個のっているとする.ベクトルで表せば,それぞれ ( s1, t1 ) ( s2, t2) ( s3, t3 ) ( s4, t4 ) となる.(ただし,これらのベクトルは互いに異なるとする.また,これらのベクトルの要素は 0 以上の整数とする.)今度は,次の選択を考えてみよう.

選択1:皿 1 2 3 のうち,どれか 1 つを選ぶ.

選択2:皿 2 3 4 のうち,どれか 1 つを選ぶ.

選択3:皿 1 4 のうち,どれか 1 つを選ぶ.

ここで,

K1 ={( s1, t1 ),( s2, t2) ,(s 3,t 3) }

K2= {( s2, t2) ,(s 3,t 3), (s4 ,t4 ) }

K3 ={( s1, t1) ,(s 4,t 4) }

と定義する.

 今度は, を以下のように定義しよう. X 氏が,選択1で皿 h すなわち ( sh, th ) を選んだとき

すべての ( sk, tk) K1 (ただし, kh )について ( sh, th ) (s k,t k)

と書くことにする.たとえば,選択1で皿 1 すなわち ( s1, t1 ) を選んだときは,

(s 1,t 1) ( s2, t2 )

かつ

(s 1,t 1) ( s3, t3 )

と書くことになる.同様に, X 氏が選択2で皿 i すなわち ( si, ti ) を選んだとき

すべての ( sk, tk ) K2 (ただし, ki )について ( si, ti) ( sk, tk )

と書き,また, X 氏が選択3で皿 j すなわち ( sj, tj ) を選んだとき

すべての ( sk, tk ) K3 (ただし, kj )について ( sj, tj) ( sk, tk )

と書くことにする.今度は,効用関数 u

すべての (s, t), ( s ,t ) {( s1, t1) ,,( s4, t4 )} について,

(s ,t) (s , t ) ならば u (s ,t) >u( s ,t )

を満たす関数

と定義する.(ここで, u { (s 1,t 1) ,, (s 4, t4 )} から実数への関数.)

(3) 効用関数が存在するための に関する必要十分条件を求め,それがなぜ必要十分条件になっているか説明せよ.

[Ⅳ] 最後に,この問題を別の観点から考えてみよう. X 氏は, 1996 2 1 日に 400 円持って買い物に出かけたとする.ある店で,りんご 1 200 円,みかん 1 100 円で売っていたとする. X 氏は 400 円を使ってりんご a 個とみかん b 個を買ったとする( 400 円使いきる必要はないが,余った金は他の物の購入には使えないとする.また, a b 0 以上の整数とする.)翌月の 1 日(つまり, 1996 3 1 日),同じ店に行くとりんごは 1 100 円,みかんは 1 200 円になっていた. X 氏は,やはり 400 円持っていて,それを使ってりんご c 個とみかん d 個を買ったとする.(同様に, 400 円使いきる必要はないが,余った金は他の物の購入には使えないとする.また, c d 0 以上の整数とする.) 1996 2 1 日の場合,購入可能であったりんごとみかんの組み合わせは

L1 ={( 0,0) ,(0 ,1) ,(0 ,2) ,(0 ,3) ,(0 ,4) ,(1 ,0) ,(1 ,1) ,(1 ,2) ,(2 ,0) }

となる.また 1996 3 1 日の場合,購入可能であったりんごとみかんの組合せは

L2= {( 0,0) ,(0 ,1) ,(0 ,2) ,(1 ,0) ,(1 ,1) ,(2 ,0) ,(2 ,1) ,(3 ,0) ,(4 ,0) }

となる.今度は を以下のように定義しよう.

すべての ( x,y) L1 (ただし, (x ,y) (a ,b) )について

(a ,b) (x ,y)

かつ

すべての ( x,y) L2 (ただし, (x ,y) (c ,d) )について

(c ,d) ( x,y )

と定義する.

 今度は,効用関数 u を, (x ,y) の集合(ただし x y 0 以上の整数)から実数への関数で,以下を満たすものとする.

すべての (x ,y) ( x ,y ) (ただし, x y 0 以上の整数)について,

(x ,y) ( x, y ) ならば u (x ,y) >u (x ,y )

を満たす関数.

u の定義域は, 0 以上の整数を要素とするベクトル全体であることに注意.また, u は増加関数とは限らないことに注意.つまり,たとえば u (0 ,0) >u (1, 1) u (1 ,0) >u (1 ,1 ) であってもよい.)

(4) 効用関数が存在しない ( a,b ) ( c,d ) の選び方を 1 つあげよ.

(5)  (a ,b) ( c,d ) が以下の条件を満たすことが,効用関数が存在しないことの必要十分条件になることを証明せよ.

条件: (a ,b) (c ,d) かつ 200 c+100 d400 かつ 100a +200b 400

inserted by FC2 system