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【1】 つの対象がどれくらい離れているかを定量的に記述するために,対象の間のへだたりを表す量を適切に導入することは,さまざまな分野において有効である.
A 数直線上に個の点をとり,これらの座標をそれぞれ,とする.実数に対して
とおく.
(A-1) のとき,として,関数の値を最小にするとそのときの最小値をを用いて表せ.
(A-2) ある会社の事業所が一直線上に個並んでいる.各事業所の位置を数直線上に表し,これらの座標をとする.ここで,とする.この会社では,事業所が並んでいる直線上で各事業所からの距離の和が最小になる地点に本社を設置したいと考えている.が奇数の場合と偶数の場合に分けて,このような条件を満たす本社の位置の座標を求め,その理由を説明せよ.ただし,個の事業所の一つと同じ場所に本社を設置してもかまわないとする.
平面上に個の点をとり,これらの座標を,それぞれとする.個の点になるべく近い直線を求めるため,
とおき,を最小にするの値を定めることを考える.
以下の問ではとする.
(A-3) と固定して
をの関数とみなす.点の座標が,それぞれのときを最小にするの値を求めよ.
(A-4) 点に対して,
を最小にするようなの値をで表せ.ただし,とする.
B 遺伝子は通りの文字の配列からなり,世代ごとに引き継がれていくが,この配列は世代とともに変化していく可能性がある.遺伝子の配列のデータから生物の系統関係などを推定するためには,配列の間のへだたりを表す量を導入することが重要である.ここでは,以下のような単純化されたモデルを用いて,遺伝子の配列の世代による推移を考察してみよう.
遺伝子の配列の一つの文字について,これが次の世代に引き継がれるときに,他の通りの文字に置き換わる確率を,それぞれとする.ここで,はを満たす実数とする.ある文字がそのまま次の世代に引き継がれる確率はである.例えばが
と推移する確率は
である.
最初の世代における遺伝子の配列の一つの文字に注目する.これが番目の世代においてである確率をで表す.ここで,最初の世代は番目と数える.また,番目の世代においてである文字が番目の世代においてとなる確率をで表す.
(B-1) をとを用いて表せ.
(B-2) とを,それぞれとを用いて表せ.
遺伝子の文字の配列が世代によって変化していく様子を考える.例えば,配列が
と推移する確率は
である.
また,文字の配列が世代目までに
と推移するとき,番目の世代の最後の文字が番目の世代ではに変化している.個の文字の配列からなる遺伝子について,番目の世代の遺伝子の配列を番目の世代と比較して,異なっている文字数の期待値をとする.
(B-3) をを用いて表せ.
上の(B-3)で求めた式を用いることにより,つ配列を比較して異なっている文字数を求めると,それらの間がおよそ何世代へだたっているかを推定することができる.
(B-4) を大きくしていくと,の値はに近づくことを示せ.
【2】 部屋の温度など,時間によって変化する現象を理解するためには,注目している量が微少時間の間にどれだけ変化するかを,その現象を特徴付ける関係式に基づいて考察することが必要である.
A 室内に汚染質発生源があるとき,室内の空気の汚染質濃度の時間変化を考える.単位時間に室内で汚染質が増加する.また,換気によって,単位時間に室内の空気が排出され,同量の室外の空気が室内に流入する.室容量はとし,室外の汚染質濃度をとする.ここで,は正の定数とする.このとき,室内の汚染質濃度を時間の関数として以下のように記述しよう.ただし,室内に流入したり室内で発生したりする汚染質は瞬間的に拡散し,汚染質は吸着や化学変化を起こさず,空気の温度は変化しないものとする.
微小時間における室内の汚染質濃度の増分をとすると,室内の汚染質の体積の増分は
で近似される.
等式
において,を限りなくに近づけることにより,関係式
が得られる.
(A-1) 式の各項がどのような量を表すかを,それぞれ述べよ.
(A-2) 室内の汚染質濃度がある値をとると,時間が変化してもその値が変化しなくなる.このようなの値を求めよ.
式を変形すると,
となる.
(A-3) 式の左辺のについての不定積分をの関数として表せ.
式の両辺をについて不定積分することにより,式を満たすはの関数として,
の形に表されることがわかる.ただし,は定数である.
(A-4) におけるの値をとして,式の定数をを用いて表せ.
B 質量の物体の空気中での落下運動を考える.鉛直下向きを正とする物体の速度をとおく.物体はその速度に比例した空気抵抗を受けると仮定すると,速度の時間変化は関係式
で表される.ここで,は正の値をとるのある関数で時間によらず一定である.また,は重力加速度を表す.
(B-1) 物体を落下させた後,十分時間が経つと物体の速度は一定値
に近づく.この理由を説明せよ.
(B-2) 質量を変えてを測定したところ,質量が大きいほど,の値がつねに大きくなるという単調性が観測された.次の(イ),(ロ),(ハ)の形の関数が,において,つねにこの条件を満たすかどうかを,それぞれ述べよ.
(B-3) 式を式と比べ,本問における物体の落下速度を第2問Aにおける室内の汚染質の濃度と対応させると,このつの量の時間変化は同様の振る舞いをすることがわかる.この点に着目し,質量の物体を,初速度をとして,空気中で落下させたときの,物体の速度の時間変化を示すグラフの概形を描け.
C ある国全体の時点における生産量を資本量を投資量をとする.ここで,は以上の実数であり,は正の実数を値にもつ微分可能な関数とする.これらの関数の間には次の関係式が成立しているとする.
ここで,はを満たす定数で,貯蓄率とよばれる.生産量は国民所得となり,その一部が貯蓄にまわされる.ここでは,貯蓄がすべて投資に用いられると仮定し,このことから式が導かれる.一方,資本量の時間変化は
で表されるとする.ここで,はを満たす定数で,減価償却率とよばれる.以下,における資本量はで与えられるとする.
(C-1) 式より,をとを用いて表せ.
(C-2) 上の問で求めた関係式に第2問Aと同様の方法を適用して,生産量をの関数としてを用いて表せ.
生産量のうち,貯蓄される分を除いたが消費に費やされる.とおく.
(C-3) 消費量がについての単調増加関数,単調減少関数,定数関数になるためのの条件を,それぞれ求めよ.
(C-4) すべてのにおいてつねにを満たす実数の中で最大の値を,最低消費量とよぶ.(C-3)のそれぞれの場合について最低消費量を求めよ.
(C-5) 与えられた減価償却率に対して,最低消費量を最大にするような貯蓄率を求めよ.