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【1】 社会的な現象をモデル化する際に,数学的分析が有用である.
A ある地域の電力料金をうまく設定して電力不足を回避する方策を以下のモデルを用いて考察する.一日の電力消費量を昼間と夜間とに分けて考える.昼間の電力消費量を夜間の電力消費量をとする.さらに電力消費に伴う支払額は一日当りとする.ここでとは電力会社が定める価格である.価格が消費量に影響を及ぼすため,これらの変数は互いに関係がある.モデルとして次のような関係式が成立する場合を考える.
(1)
(2)
ただし,とし,電力会社は,とが以上になるようにとを設定するものとする.
(Aー1) このモデルにおいては,(1)式での係数が負であり,の計数が正である.一方,(2)式ではその逆の符号になる.これらの係数の符号の意味を説明せよ.
(A-2) 昼間と夜間の電力消費量の合計をに保つとするとき,を最も小さくするとの組み合わせを求めよ.また,このときの支払額を求めよ.ただし,は,との大きい方の値(両者が等しい場合はその値)を表す.
(A-3) 昼間と夜間の電力消費量の合計をに保つとするとき,支払額のとり得る値について考える.
(a) 支払額が最も小さくなるとの組み合わせを求めよ.また,このときの支払額を求めよ.
(b) 支払額が最も大きくなるとの組み合わせを求めよ.また,このときの支払額を求めよ.
(A-4) 次に,昼間および夜間の最大電力供給量がともにのとき,電力不足に陥らないためにはをどう設定すればよいかを考える.電力不足を防ぐことのできる価格の組み合わせがとり得る範囲を考える.その範囲はに依存して変化する.を仮定して以下の問いに答えよ.
(a) その範囲を平面上に図示すると,境界は多角形になる.何角形になるか.
(b) その範囲で昼間と夜間の電力消費量の合計が最も大きくなるとの組み合わせを求めよ.
B 人々の間の所得格差を測る指標は分析者の視点や価値観などに依存していろいろ考えられる.ひとつの指標としてジニ係数がある.人の人がいて,番目の所得がであったとする.人の総所得をとする.したがってが成立する.ただしおよびを仮定する.また平均所得を
とおく.このときジニ係数 は
によって定義される.すなわち個人間の所得差の絶対値をとり,その平均と平均所得の倍との比である.
(B-1) を正の実数とする.すべての人の所得が一律に倍され,になったとする.最初のジニ係数と,所得が倍された後のジニ係数の関係を示せ.
(B-2) ここではを仮定し,が,
をみたしているとする.その後,総所得が一定のまま所得分配が変化し,新たな所得が
になったとする.所得分配変化の以前と以後におけるジニ係数の大小を比較せよ.
(B-3) 総所得人数を固定したとき,ジニ係数のとり得る最大値を求めよ.またそのときのを求めよ.
(Bー4) 冒頭に述べたように所得格差を測る指標はジニ係数の他にも色々考えられる.たとえば相対的貧困率がある.が偶数のとき,これは次のように定義される.とおき,は,
をみたしているとする.ここで所得の中央値の半分すなわち以下の所得しかない人の総数をとする.このとき相対的貧困率はとの比
によって定義される.
上の所得のもとではかつであったとする.このときはをみたす.その後,総所得が一定のまま所得分配が変化し,新たな所得が次のようになったとする.
ただしはをみたす実数である.
この変化を適当なとの値に対して考えると,総所得が一定のまま,新たなジニ係数は以前のジニ係数より小さくなるが,しかし新たな相対的貧困率は,以前の相対的貧困率より減ることはないことを示せ.
【2】 この問題では,身近に遭遇する幾何学的な現象をモデル化し,定量的に考察する.
A ある規則にしたがって平面上に分布している多数の点を,少し離れたところから眺めるとき,距離の近い点が連なって,あたかも線であるかのような模様に見えることがある.この現象を解析するため,以下のような数学的モデルを用いて考察する.
を平面上の点からなるひとつの集合とする.を平面上のひとつの直線とする.の点のうちには直線の上に乗っているものと,乗っていないものとがある.これらが次の二つの条件をみたす場合を考える.
条件1:の点のうち,直線の上に乗っているものは無限個あり,それらは等間隔に分布している.その間隔をとする.
条件2:の点のうち,直線の上に乗っていないものを考える.それらの中で直線から最も近い距離のものが無限個ある.その距離をとする.
直線上に乗っているの点が「連なった模様」として際立って見えるためには,比の値がある程度大きいことが必要であると考えられる.
(A-1) 集合として,次の場合を考察する.集合は次の条件をみたす平面上の点の全体とする.
点から直線までの距離は整数である.また,点から直線までの距離も整数である.
この集合に対して,様々の直線が条件1,条件2をみたす.それらの中で,となる直線はどのようなものか.また,そのときのの値を求めよ.
(A-2) 集合と直線として,次の場合を考察する.をみたすつの正の整数を固定する.またとおき,直線は直線であるとする.集合は次の条件をみたす平面上の点の全体とする.
軸から点までの距離は整数である.また,ある整数に対して軸上の点から点までの距離はと等しい.(ただし,はに応じて様々な値をとる.)
この集合と直線は条件1,条件2をみたす.
(a) とを用いてとを表せ.
(b) が成立し,がをみたすと仮定する.このとき不等式が成立することを示せ.
B 字路において長方形の机を「の字」の下方から上方に移動させ,角で右折して右の方向に運びたい.この机が境界線を突き出ることなく右折できるための条件を考える.
正の実数に対して平面上の次のような字路を考える.字路のひとつの境界は直線である.また,軸から,点を両端とする線分を除いた部分も境界である.境界の残りの部分は,点の各々から軸の負の方向にのびる本の半直線である.この字路内を移動する長方形の机を考える.長方形の辺の長さはそれぞれである.ただし,はおよびをみたす.
まず境界線を気にせず机の移動方法を以下のように定め,次にその方法による移動によって境界線の上方に机が突き出るかどうかを考察する.
(1) はじめは頂点が軸の負の部分の上にあり,点が直線上にあるように机を動かす.(図1,図2)
(2) その後は点が辺上にあり,点が辺上にあるように机を動かす.(図3)
軸と直線のなす角度をとする.(平行であるときはとおく.)をとなる実数であってをみたすものとすると,次が成立する.
・(1)においての動く範囲はとなる.(図1,図2)
図1 |
図2 |
・(2)においての動く範囲はとなる.(図3)
図3 |
頂点の座標をとする.
(B-1) の挙動を調べるために,次の商を考察する.
(a) において上の商を求めよ.
(b) において上の商を求めよ.
(Bー2) の挙動をの場合と,それ以外の場合にわけて考える.
(a) におけるの最大値を求めよ.
(b) である場合を考える.机が境界線を突き出ることなく字路を右折できるために,辺の長さがみたすべき条件を求めよ.
(Bー3) においてが最大値をとるはただひとつ存在する.そのをとおき,最大値をとおく.机が境界線を突き出ることなく字路を右折できるような最小のはに他ならない.の値は長方形の辺の長さに依存してきまる.を一定にしたままをどこまでも大きくするときのの挙動を考える.次の極限値を求めよ.
(a)
(b)