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2015 東京大学 後期 総合科目II

易□ 並□ 難□

【1】 ローンの返済計画や確率を伴うゲームを数理モデルにより考察しよう.

A 住宅ローンなどで資金を借りた場合,返済総額は,利子の支払いのために元金より多くなり,また返済方式によっても異なってくる.このことを数理モデルにより考察しよう.なお,金額は連続量として扱う.

 元金 A を借りる.利子は借入日から 1 年毎に,過去 1 年間の借入残高に対して年利率 r で発生する.返済も借入日からちょうど 1 年毎に行う.そして借入日から N 年後に返済を完了する.従って,借入日から数えて n 年後からの 1 年間を通じての借入残高を an 借入日から数えて n 年後の返済額を x n とすれば, a0 =A および

(#)  an =an -1+ ra n-1 -xn n=1 2 N

が成り立つ.ただし,元金 A および年利率 r は正の実数,年数 N および n は整数とし, N2 1n N とする.

(A−1) 毎年一定の金額 x を返済していく方式,すなわち x1= x2= =x N=x という方式を元利均等返済とよぶ.この返済方式による借入残高 a n を特に b n と書く. bn A r n x を用いて表せ.さらに, N 年後に返済を完了することに注意して, x および N 年間の返済総額 X A r N を用いて表せ.

(A−2) 毎年,元金 A の一定の割合を返済し,それに加えて過去 1 年間の借入残高に対して発生した利子全額をただちに返済していく方式を,元金均等返済とよぶ.この返済方式による借入残高 a n を特に c n と,また返済額 x n を特に y n と書く. cn および y n A r N n を用いて表せ.さらに N 年間の返済総額 Y A r N を用いて表せ.

 元利均等返済および元金均等返済における A r N は同一の値をとることとして以下の問答えよ.

(A−3) 元利均等返済の毎年の返済額 x と,元金均等返済の借入日から 1 年後の返済額 y 1 の差の正負を判定することにより, x y 1 のどちらが大きくなるか答えよ.

(A−4) 元利均等返済の返済総額 X と元金均等返済の返済総額 Y はどちらが大きくなるか答えよ.

B 以下のようなゲームを考える.

(1) 大きな木の周囲に, N 人の子供たちが円を作って木の外側を向いて立っている.ただし N 2 とする.

(2) ゲーム開始時点の状態(初期状態)において,それぞれの子供は紙でできたチケットを 0 枚または 1 枚持っている.子供たちの持つチケットの総数は M である.ただし M 奇数であるとする.

(3) ゲーム開始 1 分後に太鼓の合図がある.子供たちは合図を聞いたらすぐさま次の行動(*)をする.

(*) 

(a) チケットを持っている子供は,それぞれの手元にあるコインを投げ,表が出ればチケットを右隣の子供に手渡す(「パス」する),裏が出ればチケットをそのまま持っておく(「キープ」する).ただしコインの表,裏の出る確率はともに 12 とする.

(b) 上記(a)でキープした子供が,左隣の子供からチケットをパスされた場合には,手にした 2 枚のチケットをまとめて捨てる.

(4) 太鼓の合図はゲーム開始 1 分後, 2 分後, 1 分毎にあり,そのたびに子供たちは上記(3)の行動(*)をくり返す.

 自然数 k m に対して,ゲーム開始後 k 分後の太鼓の合図に従った行動(*)の直後に,子供たちの持つチケットの総数が m 枚である確率を P k,m と書く.

(B−1)  N=M =3 のとき, P1 ,1 P1 ,2 P 1,3 の値を求めよ.

 ゲームが進んでいくにつれて,子供たちのうち一人だけがチケットを持っている状態が現れうる.この状態を定常状態とよぶ.

(B−2) 次のような特別な状況を考えよう.ある特定の子供 C はパスを行うことはなく, C 以外の子供はキープを行うことはない.ということがくり返される.この状況においては,全体の状態はいずれ定常状態にいたる.このことを用いて次を示せ.

 ゲーム開始 ( N-1 ) 分後の太鼓の合図に従った行動(*)の直後に定常状態である確率は,

1 2M (N- 1)

以上である.

(Bー3) 極限 limk P k,1 を求めよ.ただし, Pk, 1 はゲーム開始 k 分後の太鼓の合図に従った行動(*)の直後に定常状態となっている確率を表すことに注意せよ.

 定常状態におけるチケットの動きについて考えよう.

(Bー4) 定常状態において,ある子供がチケットを受け取ったのち,そのちょうど l 分後(ただし l は自然数)に初めてチケットをパスする確率を Q l と書く.この子供がチケットを持ち続ける時間の期待値,すなわち無限級数 l =1 l Ql の和を求めよ.

2015 東京大学 後期 総合科目II

易□ 並□ 難□

2015年東京大後期総合科目II【2】の図

図1

【2】 証明のあて方や製品管理をより効果的・効率的に行うための解析に数理モデルを用いることができる.

A 次の 6 点を頂点とする正 8 面体(図1)を考える.

P+ =( 1,0, 0) P -=( -1,0 ,0)

Q +=( 0,1, 0) Q- =(0 ,-1, 0)

R+ =( 0,0, 1) R- =(0 ,0,- 1)

平行な光をその正 8 面体に照射する.その光の向きを

l =-( a,b, c) (ただし, a2 +b2 +c2 =1 a bc 0

とする.また,正 8 面体の 8 つの面のうち,光のあたっている面の個数を k とする.ただし,光の向きと面が平行な場合は,その面には光はあたっていないと考える.なお,正 面体は光が一切透過しない素材でできているとする.

 以下の(A−1),(A−2),(A−3)においては答えを述べるだけでよい.

(A−1)  k はどのような値を取り得るか答えよ.

 さらに,同じ空間内に光の向きと垂直で,正 8 面体と交わらない平面があるとする.その平面をスクリーンと見立てよう.そのスクリーンは正 8 面体の後方にあり,その上に正 8 面体の影が生じているとする.その影は n 角形であるとする.

(Aー2)  n はどのような値を取り得るか答えよ.また, k n の組 ( k,n ) としてはどのようなものがあり得るか答えよ.

(Aー3)  (k ,n) が(A−2)で挙げたおのおのの組であるとき,光があたっているのはどの面か答えよ.ただし,例えば P+ Q + R + を頂点とする面は P+ Q+ R+ と記せ.

 次の問に対しては答えだけでなく理由も述べよ.

(Aー4)  (k ,n) が(Aー2)で挙げたおのおのの組であるのは, a b c がどのような範囲にあるときか.

B 倉庫に n 個(ただし n 2 )の異なった製品が保管されている.それらを製品 1 製品 2 製品 n とよぶ.それらの製品は倉庫の出入り口から奥に向かって 1 列に置かれている.ここで出入り口から近い順で j 番目(ただし j =1 2 n )に於かれている製品を倉庫から搬出するのに要する時間を t j とし, 0<t 1<t 2< <tn と仮定する.

 一方,製品 α (ただし α =1 2 n )が注文される確率を p (α ) とする.ただし, 0<p (α )<1 p( 1)+ p( 2)+ +p (n) =1 をみたすとする.ここで, 1 つの製品に注文があったとする.製品は出入り口から近い順に製品 a1 製品 a2 製品 a n の順に並んでいるとすれば,搬出に要する時間の期待値は T ( a1, a2, ,an )= j=1 nt jp (aj ) となる.ただし, a1 a2 an には 1 から n の番号がちょうど 1 回ずつ現れる.

 製品の配列順序 a1 a 2 an を変えたときの T (a 1,a 2, ,an ) の変化を調べるために以下のような定式化を行う.より一般的に, n 個の相異なる自然数 a1 a 2 an からなる列 a =( a1, a2, ,a n) n 次列とよぶ.ただし, 2 つの n 次列 a =( a1, a2, ,a n) b= (b 1,b 2, ,bn ) にたいして, a1 =b1 a2 =b2 a n=b n のとき a =b そうでないとき a b とする.特に 1 から n の自然数がちょうど 1 回ずつ現れる n 次列を標準 n 次列とよぶ.例えば標準 3 次列は以下の 6 個である.

(1 ,2,3 ) (1 ,3,2 ) (2 ,1,3 ) (2 ,3,1 ) (3 ,1,2 ) (3 ,2,1 )

2 つの n 次列 a =(a 1,a 2, ,an ) b= (b1 ,b2 ,,b n) にたいして,以下の条件(*)が成り立つとき, ab と書く.

(*)  1j <kn および aj> ak をみたす任意の j k にたいして bj> bk が成立する.

特に a b かつ a b のとき a b と書く.

 以下の問に答えよ.

(Bー1)  a b を標準 n 次列とする. ab をみたす b が存在しないような a を求めよ.逆に a b をみたす a が存在しないような b を求めよ.

(Bー2)  n 次列 a =(a 1,a 2, ,an ) b=( b1, b2, ,b n) にたいして,

a1 b1 a2 b2 a nb n

が成立するとき a b と書く. n 次列 a =(a 1,a 2, ,an ) にたいして, a1 a2 an を小さい順に並べてできる n 次列を a と書く.例えば 3 次列 a =(4 ,1,2 ) にたいしては, a =( 1,2, 4) である.また n 次列 a =( a1, a2, ,an ) から右側の k 個(ただし k =1 2 n- 1 )の数を除去してできる ( n-k ) 次列 ( a1, a2, ,a n-k ) a [k ] と書く.例えば 5 次列 a =(3 ,1,6 ,5,2 ) にたいしては, a[ 2] =(3 ,1,6 ) である.

 このとき以下の(ア),(イ)を示せ.

(ア)  n 次列 a b にたいして, a b かつ a b ならば, a [1] b [1] が成り立つ.

(イ) 特に標準 n 次列 a b にたいして, a b ならば,すべての k (ただし k =1 2 n- 1 )にたいして a [k] b [k] が成り立つ.

(Bー3) 各製品 α (ただし α =1 2 n )が注文される確率 p (α ) にたいして

p( 1)< p( 2)< <p (n)

が成り立つとする.標準 n 次列 a b a b をみたすとする.このときすべての m (ただし m =1 2 n )にたいして

j= 1m p( aj ) j=1 mp (bj )

が成り立つことを示せ.

 問は以上であり,以下はこの問題に対する補足である.

 標準 n 次列 a =(a 1,a 2, ,an ) b=( b1, b2, ,b n) a b をみたすとする.このとき,(Bー3)で示した不等式を用いて, T( a1, a2, ,a n) T( b1, b2, ,b n) を証明することができる.すなわち,搬出時間の観点からすれば, a よりも b の方が良い配列,あるいは a b とは同程度に良い配列といえる.この事実を搬出時間の短縮に活用することが可能である.

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