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1996 東京大学 後期

理科Ⅰ類総合科目Ⅱ

易□ 並□ 難□

【1】 光通信において光の伝送には種々のものが使われている.その中で,光ファイバーについて考えてみよう.断面が円形の細いファイバー状の透明なガラスやプラスチックでできた中心部(コア)を,それより屈折率の低い材質(クラッド)で覆うことにより,光の漏れを防いでいる.さまざまな構造の光ファイバーが用いられているが,ここでは基本的な光ファイバーの構造として,コアの屈折率が一定のもの(ステップ型光ファイバー)と屈折率分布を持つもの(グレーデッド型光ファイバー)をとり上げる.光の信号は,非常に短い時間の光の強度の変化によって表されるが,ファイバー中の光線の経路や光の進行速度の変化により,ファイバーの出口まで到達するのに要する時間が異なるために入口と出口では光の強度の変化の形が変わってしまう.

 以下の設問では,入射される光はファイバーの入口のコアの端面の中心を通るものとする.また,必要があればファイバーの長さを L としてよい.

1996年東京大後期理科1類総合科目2【1】の図

図1 ステップ型光ファイバー

(1) まず,光ファイバーの構造とその中の光線の経路と光の伝送速度について考えてみよう.図1のように,ステップ型光ファイバーでは,コアの屈折率は n1 クラッドの屈折率は n 2 である.コアの中心軸を z 軸とし,この z 軸を含む断面(図1(a))で光線の経路を考える. z 軸に対して角度 δ 0 で入射された光はコアの中では直進し,コアとクラッドの界面で反射される.このときの角度 θ (図1(a)の θ )が臨界角 θ c sinθ c=n 2/n 1 より大きいとき,光は反射され伝送されるが, θc より小さいと,クラッドへ光が漏れ,最終的にはファイバーの出口まで光は届かないとする.また,ファイバー以外の場所での屈折率は 1 とする.

 入射光が z 軸上を進んだ場合の出口までの所用時間を t 0 とするとき,光の入射角度 δ 0 の関数として出口までの所要時間を記せ.さらに,所要時間が最も長くなる場合の所要時間も記せ.

1996年東京大後期理科1類総合科目2【1】の図

図2 グレーデッド型光ファイバー

(2) 図2のように,グレーデッド型光ファイバーのコアの屈折率分布は軸対称であり, 2 乗分布

n2 (x) =n1 2( 1-g2 x2 )

gは定数

をとるものとする.このとき,ファイバー中では,光線は正弦波状に蛇行して進行する.ここでは,ファイバーの中心に入射された光は,屈折率分布が 2 乗分布の範囲内を通るものとして,光線の経路を表す式を考えてみよう.

1996年東京大後期理科1類総合科目2【1】の図

図3 光の進行方向と屈折率

 また,図3に示したように,光線の経路の中にある点 i における屈折率 n i と進行方向の z 軸となす角 δ i は,光線のファイバー内の最初の位置での屈折率 n i と進行方向 δ とで以下のように表すことができる.

ni cosδ i=n 1cos δ

(ⅰ) このとき,光線の経路を表す式は x =Asin Bz となる.係数 A B を求めよ.

(ⅱ) 光ファイバー中では,光の速度は c0 /n c 0 ;真空中の光速, n :屈折率)で表される.したがって,軸上の光の速度は c0/ n1 となり,軸から離れるほど速くなることがわかる.入射光が z 軸上を進んだ場合の出口までの所要時間を t 0 とするとき,光の入射角度 δ 0 の関数として出口までの所要時間を記せ.

(3) 上の問題からもわかるようにステップ型とグレーデッド型光ファイバーを用いて光の信号を伝送する場合,入射した光が,ファイバーの入口でその入射角度に幅があると,光線の経路が異なることによりファイバー出口での到達時刻に幅ができてしまう.この出口での到達時刻の幅によって,信号の間隔が短いと出口で信号が重なってしまうことや,入口での光の強度変化が出口では小さくなってしまうことなどの不都合が起きることがわかる.光の入射角度とその角度分布が,ステップ型とグレーデッド型光ファイバーで同じであるとするとき,どちらのファイバーが光の信号の伝送に適しているか,理由もあわせて述べよ.

(4) 実際は,光の波長によっても屈折率が異なるために,光の出口までの所要時間は変わってくる.実際の光源は,単一の波長の光のみを放出するのではなく,必ずいくらかの波長範囲をもっている.ここでは,簡単のために入射光が,波長 λ 1 から波長 λ 2 λ1< λ2 までの波長に対して一定の強度を持っているとする.さらに,光線の経路は z 軸上とする.波長範囲がきわめて狭いので各波長の屈折率 n (λ ) は,次式で求められるとする.

n( λ)= -Pλ +Q P および Q は正の定数, λ2 >λ> λ1

入射光強度 I0 (t ) が, I0 (t )=sin t 0t π であるとするとき,光ファイバーの出口での光の強度を求めよ.入射光の波長範囲がきわめて狭いので,出口までの所要時間の波長による差は π よりも小さいとする.さらに,最初に光が届く時刻を 0 として,時刻 t のときの光の強度 I (t ) として記せ.

1996 東京大学 後期

理科Ⅰ類総合科目Ⅱ

易□ 並□ 難□

【2】 高速道路のカーブの設計を考える.この際,自動車の運転者にとって運転しやすい自然なカーブ形状が望ましい.そこで,自動車の運転者は,速さ一定で走行しつつハンドルを一定角度で回転させるものとして設計を行う.

  xy 平面上で x 軸の正の方向に速さ v で走行していた自動車が,時刻 t =0 においてハンドルを一定角速度で回転させるものとする.ハンドルの回転角速度を ω とすれば,ハンドルをきり始めて t 秒後のハンドルの回転角 φ φ =ω t であり,タイヤの回転角 ϕ ϕ =kφ =kω t である.ここで, k は定数であり, v は常に一定である.また,自動車の大きさは無視できるものとして,次の問いに答えよ.

(1) 時刻 t における進行方向と x 軸とのなす角を求めよ.ただし, t0 とする.

(2) 自動車の進行方向と x 軸とのなす角 γ と,時刻 t =0 からの自動車の走行距離 L との関係式を求めよ.

(3) 曲率半径 R と走行距離 L の積は,カーブ上のあらゆる点において常に一定となることを示せ.なお,極率半径とは曲線の曲がり具合を接触円の半径として表現したもので,次式で定義される.

R= {1+ ( d ydx ) 2} 32 d2y dx 2 = { ( dx dt )2 +( d ydt ) 2} 32 d xdt d2y dt2 - d2x dt 2 dyd t

 時刻 t =t1 まで回転角速度 ω でハンドルをきり,時刻 t =t1 からは回転角速度 - ω でハンドルをきったところ,時刻 t =2× t1 において自動車の進行方向は y 軸方向となった.

(4) 時刻 t 1 における極率半径 R 1 を求めよ.

(5) 実際には,カーブ走行中の遠心力に起因する不快感や危険性を緩和するために,道路面に傾き角をもたせるように設計がなされる.このとき,道路面の傾き角 の設定は,重力と遠心力との合力が道路面に垂直になるように行われ,傾き角 θ に対する tan θ は片こう配と呼ばれる.時刻 t 1 の地点における片こう配 tan θ を求めよ.重力加速度を g とする.

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