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【1】 経済や社会的な現象の解明には数理モデルによる考察がしばしば有効である.
A ある財の市場の需要曲線が,を財の価格,を市場の総生産量としたとき,
で与えられるモデルを考える.ここでは正の定数である.
この市場には二つの企業(企業と企業)が存在し,に対してを企業の生産量,を企業の総費用としたときに,企業の利潤は市場の総生産量はである.ただしとする.
まずに対して企業の総費用がで与えられ,は単位あたりの生産費用でありをみたす正の定数である場合を考える.
(A-1) 企業は,企業の生産量を所与として自己の利潤を最大化するように生産量を決定する.企業が決定するをを用いて表せ.
企業と企業が,相手の生産量を所与としたときに,自己の利潤を最大化する生産量を生産している状態を「均衡」という.
(A-2) 均衡における企業と企業の生産量市場の総生産量財の価格を求めよ.
企業と企業がカルテルを形成している場合を考える.すなわち企業と企業が協力し,二企業の利潤の和を最大化するように行動するとしよう.
(A-3) このときの市場の総生産量財の価格を求め,(A-2)の場合と比較せよ.
次にに対して企業の総費用はで与えられるが,は定数ではなく確率変数(たとえば,サイコロを振って出た目の値)である場合を考える.に対し,は値を確率で,値を確率でとる.ここでは正の定数でをみたす.確率変数とは互いに独立である.各々の企業は,の値,との独立性,および,自己のの値を観測できるが,他企業のの値は観測できない.各企業は,自己のの値を観測した後に生産量を決定する.をであることを観測した場合の企業の生産量,をであることを観測した場合の企業の生産量とする.
各企業が,他企業の生産量の組を所与としたときに,自己の利潤の期待値を最大化する生産量を生産している状態を「均衡」という.
(A-4) 均衡における企業と企業の生産量の組を求めよ.また,均衡におけるを(A-2)の場合でとおいた場合の企業の生産量と比較せよ.
B いわゆるハブ空港では,乗客が乗り換えている間に,預けられた手荷物を行き先別に迅速に振り分けなければならない.このような手荷物の振り分けを自動的におこなう次のような装置を考えてみよう.
この装置はベルトに乗って流れてくる手荷物のタグを読み取って,あらかじめ決められた行き先のいずれかに街頭するなら左のベルトに,そうでないなら右のベルトに自動的に振り分ける.これらの振り分け装置を組み合わせて,本のベルトを流れてくる手荷物を個別の行き先別に振り分ける.
各装置が振り分けを実行するのに単位時間かかり,ベルト上を流れる時間は無視できるとする.またそれぞれの荷物は,前の荷物の振り分けが完全に終わってから,ベルトに載せられることとする.
図1ー1
例えば図1ー1のように装置を組み合わせると,荷物を行き先へ振り分けることができる.は荷物の行き先がなら左に,なら右のベルトに振り分ける.も同様に振り分ける.行きの荷物がベルトに載せられてから振り分けられるまでの時間は,行きの振り分け時間と同じく単位時間となる.
個の荷物がベルトに載せられてから,行き先別に振り分けられるまでの時間の平均を平均振り分け時間と呼ぶ.行き先がであり,行き先別の荷物の個数の割合がそれぞれであるとするとき,平均振り分け時間が最小となるような振り分け装置の組合せを,に対する最適な装置の組み合わせと呼ぶ.
例えば行き先がの箇所であり,振り分けられる荷物の個数の割合が行き先別に全て等しくずつであるとすると,図1-1のような装置の組み合わせは最適な組み合わせである.
(Bー1) 行き先がの箇所であり,行き先別の荷物の個数の割合がそれぞれであるとする.このとき,に対する最適な装置の組み合わせと,平均振り分け時間を求めよ.なお,最適であることの証明は必要ない.
以下,行き先がであり,行き先別の荷物の個数の割合がである場合に,最適な装置の組み合わせを考える.
(Bー2) に対する最適な装置の組み合わせにおいて,の振り分け時間はの振り分け時間の中で最大になることを示せ.さらに,の振り分け時間もと同じ値になることを示せ.
図1ー2
装置の組み合わせにおいて,図1ー2のように,との間で直接荷物を振り分ける装置がベルトの末端にあることをとが隣接するとよぶ.
次の事実が知られている.(Bー3),(bー4)の解答に用いてもよい.
に対する最適な装置の組み合わせは複数ありえる.しかしその中には,とが隣接するような組み合わせが必ず存在する.
(Bー3) に対する装置の組み合わせのうち,とが隣接するような組み合わせを一つ選び,とおく.ここで行きの荷物の振り分けをやめることとし,行きの荷物は同じ行き先の荷物として振り分けることを考える.このために,から振り分け装置を一つ除去し,得られる装置の組み合わせをとおく.
とをそれぞれの平均振り分け時間とするとき,をとで表せ.
さらに,次の事実が知られている.(Bー4)の解答に用いてもよい.
(Bー3)の状況において,がに対して最適な組み合わせであれば,はに対して最適な組み合わせである.
(Bー4) 荷物の行き先がの箇所で,行き先別の荷物の個数の割合がそれぞれ
である場合を考える.このとき,最適な装置の組み合わせを一つ示し,その平均振り分け時間を答えよ.
【2】 数理モデルの工学的な応用や幾何学的なゲームへの応用を考えよう.
図2ー1
A 図2ー1のような半径の円形の湖の湖底の形状は,最大水深の直円錐であり,湖底に生物の卵が産み付けられていて,単位面積当たり個で湖底に均一に分布している.卵の数は連続的な正の実数値をとると考える.次の問に答えよ.
(A-1) なる実数に対し,湖面からの深さがからまでの湖底にある生物の卵の総数を求めよ.また,深さが微小変化した時のの変化率を求めよ.
生物は湖水を利用する上で有害であるため,湖面全体に紫外線照射装置を設置し,卵を死滅させたい.を正の定数として湖面に垂直に単位面積当たり紫外線強度の一様な紫外線を照射し,卵を死滅させる.
ところで一般に,この紫外線に垂直な面上では,単位面積当たりの卵の生存個数が経過時間に対して
なる方程式に従って減少する.時刻に紫外線照射を開始する.
(Aー2) の両辺をで積分することにより,をを使って表せ.
湖底面に紫外線を照射することを考えると,紫外線の方向と面の法線方向が一致しない.その場合,図2-1のように角度をなすときは強度がに減少する.
(A-3) 湖水による紫外線強度の減衰はないとする.照射開始から経過時間後の卵の生存個数は湖全体で何個か.
(A-4) 次に湖水による紫外線強度の減衰を考慮しよう.深さにおける紫外線強度が湖面における強度の倍であるとする.照射開始から経過時間後の卵の生存個数は湖全体で何個か.
B 図2-2のような長方形を考える.辺の長さは辺の長さはとし,辺の中点をとする.
図2-2 |
図2-3 |
点から玉を突く.玉の方向は線分と反時計回りになる角度をなし,初速度はとする.時刻に点から出発して,壁または壁に当たるまでの時刻における速度はであるとする.壁または壁に当たる時刻をとしたとき,時刻において次に壁に当たるまでの玉の速度はであるとする.以降壁に当たるごとに,壁に当たった直後の速度は,壁に当たる直前の速度の半分になるものとする.例えば回目に壁に当たる時刻をとすると,時刻において回目に当たるまでの玉の速度はとなる.
以上において,玉の大きさは考えないものとする.玉は壁に当たるまでは直進するものとし,壁に当たると図2ー3のように入射角と反射角が等しい跳ね返りをするものとする.また玉がコーナーのまたはに到達した場合にはそれ以降玉は移動しないものとする.
まずの場合を考える.
(Bー1) 玉が壁に当たるような初速度の範囲を求めよ.
(Bー2) 玉が壁に当たるような初速度の範囲を求めよ.
次にを以上の整数とし,をにより定まる角度とする.この角度で玉を突く場合を考える.
(Bー3) 初速度を十分大きくすれば玉がまたはに到達するようなを考える.このようなのうち最小のものを求めよ.
(Bー4) 玉がまたはに到達するための必要十分条件をと初速度による条件式で表せ.