2014 東京大学 後期 総合科目IIMathJax

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2014 東京大学 後期 総合科目II

易□ 並□ 難□

【1】 経済や社会的な現象の解明には数理モデルによる考察がしばしば有効である.

A ある財の市場の需要曲線が, P を財の価格, Q を市場の総生産量としたとき,

P=a- bQ

で与えられるモデルを考える.ここで a b は正の定数である.

 この市場には二つの企業(企業 1 と企業 2 )が存在し, i=1 2 に対して q i を企業 i の生産量, Ci を企業 i の総費用としたときに,企業 i の利潤は P qi -Ci 市場の総生産量は Q =q1 +q2 である.ただし qi 0 とする.

 まず i =1 2 に対して企業 i の総費用 C i Ci= ki qi で与えられ, k1 k2 は単位あたりの生産費用であり a 2> k1 k2 をみたす正の定数である場合を考える.

(A-1) 企業 1 は,企業 2 の生産量を所与として自己の利潤を最大化するように生産量 q 1 を決定する.企業 1 が決定する q 1 a b q 2 k 1 k2 を用いて表せ.

 企業 1 と企業 2 が,相手の生産量を所与としたときに,自己の利潤を最大化する生産量を生産している状態を「均衡」という.

(A-2) 均衡における企業 1 と企業 2 の生産量 q1 q 2 市場の総生産量 Q 財の価格 P を求めよ.

 企業 1 と企業 2 がカルテルを形成している場合を考える.すなわち企業 1 と企業 2 が協力し,二企業の利潤の和を最大化するように行動するとしよう.

(A-3) このときの市場の総生産量 Q 財の価格 P を求め,(A-2)の場合と比較せよ.

 次に i =1 2 に対して企業 i の総費用 C i Ci= ki qi で与えられるが, ki は定数ではなく確率変数(たとえば,サイコロを振って出た目の値)である場合を考える. i=1 2 に対し, ki は値 L を確率 R で,値 H を確率 1 -R でとる.ここで R H L は正の定数で 0 <R<1 2 3a >H>L をみたす.確率変数 k 1 k 2 は互いに独立である.各々の企業 i は, R H L の値, k1 k 2 の独立性,および,自己の k i の値を観測できるが,他企業 j k j の値は観測できない.各企業 i は,自己の k i の値を観測した後に生産量を決定する. qi L ki=L であることを観測した場合の企業 i の生産量, qi H ki= H であることを観測した場合の企業 i の生産量とする.

 各企業 i が,他企業 j の生産量の組 ( qj L, qjH ) を所与としたときに,自己の利潤の期待値を最大化する生産量を生産している状態を「均衡」という.

(A-4) 均衡における企業 1 と企業 2 の生産量の組 ( q1 L, q1H ) ( q2 L, q2H ) を求めよ.また,均衡における q1L を(A-2)の場合で k1= k2=L とおいた場合の企業 1 の生産量と比較せよ.

B いわゆるハブ空港では,乗客が乗り換えている間に,預けられた手荷物を行き先別に迅速に振り分けなければならない.このような手荷物の振り分けを自動的におこなう次のような装置を考えてみよう.

 この装置はベルトに乗って流れてくる手荷物のタグを読み取って,あらかじめ決められた行き先のいずれかに街頭するなら左のベルトに,そうでないなら右のベルトに自動的に振り分ける.これらの振り分け装置を組み合わせて, 1 本のベルトを流れてくる手荷物を個別の行き先別に振り分ける.

 各装置が振り分けを実行するのに 1 単位時間かかり,ベルト上を流れる時間は無視できるとする.またそれぞれの荷物は,前の荷物の振り分けが完全に終わってから,ベルトに載せられることとする.

2014年東大後期【1】の図

図1ー1

 例えば図1ー1のように装置 M1 M 2 M3 を組み合わせると,荷物を行き先 D1 D 2 D3 D4 へ振り分けることができる. M1 は荷物の行き先が D1 D 2 なら左に, D 3 D 4 なら右のベルトに振り分ける. M 2 M 3 も同様に振り分ける. D1 行きの荷物がベルトに載せられてから振り分けられるまでの時間 t 1 は, D 2 D 3 D 4 行きの振り分け時間 t2 t 3 t4 と同じく 2 単位時間となる.

  1 個の荷物がベルトに載せられてから,行き先別に振り分けられるまでの時間の平均を平均振り分け時間と呼ぶ.行き先が D1 D 2 D n であり,行き先別の荷物の個数の割合がそれぞれ P1 P 2 Pn であるとするとき,平均振り分け時間が最小となるような振り分け装置の組合せを, D1 D2 D n に対する最適な装置の組み合わせと呼ぶ.

 例えば行き先が D1 D 2 D3 D 4 4 箇所であり,振り分けられる荷物の個数の割合が行き先別に全て等しく 14 ずつであるとすると,図1-1のような装置の組み合わせは最適な組み合わせである.

(Bー1) 行き先が D1 D 2 D3 D 4 4 箇所であり,行き先別の荷物の個数の割合がそれぞれ 1 16 316 14 1 2 であるとする.このとき, D 1 D2 D 3 D 4 に対する最適な装置の組み合わせと,平均振り分け時間を求めよ.なお,最適であることの証明は必要ない.

 以下,行き先が D1 D 2 Dn であり,行き先別の荷物の個数の割合が P1< P2< <P n である場合に,最適な装置の組み合わせを考える.

(Bー2)  D 1 D2 D n に対する最適な装置の組み合わせにおいて, D1 の振り分け時間は D1 D 2 D n の振り分け時間の中で最大になることを示せ.さらに, D2 の振り分け時間も D1 と同じ値になることを示せ.

2014年東大後期【1】の図

図1ー2

 装置の組み合わせにおいて,図1ー2のように, D1 D2 の間で直接荷物を振り分ける装置 M がベルトの末端にあることを D1 D2 隣接するとよぶ.

 次の事実 F1 が知られている.(Bー3),(bー4)の解答に用いてもよい.

D 1 D2 D n に対する最適な装置の組み合わせは複数ありえる.しかしその中には, D1 D2 が隣接するような組み合わせが必ず存在する.

(Bー3)  D 1 D2 D n に対する装置の組み合わせのうち, D1 D2 が隣接するような組み合わせを一つ選び, S とおく.ここで D1 D 2 行きの荷物の振り分けをやめることとし, D 1 D2 行きの荷物は同じ行き先 D の荷物として振り分けることを考える.このために, S から振り分け装置を一つ除去し,得られる装置の組み合わせを S とおく.

  T T をそれぞれ S S の平均振り分け時間とするとき, T T P1 P 2 で表せ.

 さらに,次の事実 F2 が知られている.(Bー4)の解答に用いてもよい.

(Bー3)の状況において, S D D 3 D n に対して最適な組み合わせであれば, S D1 D 2 D 3 D n に対して最適な組み合わせである.

(Bー4) 荷物の行き先が D1 D 2 D 7 7 箇所で,行き先別の荷物の個数の割合がそれぞれ

3 81 681 781 881 1281 1881 27 81

である場合を考える.このとき,最適な装置の組み合わせを一つ示し,その平均振り分け時間を答えよ.

2014 東京大学 後期 総合科目II

易□ 並□ 難□

【2】 数理モデルの工学的な応用や幾何学的なゲームへの応用を考えよう.

2014年東大後期【2】の図

図2ー1

A 図2ー1のような半径 R の円形の湖 A の湖底の形状は,最大水深 1 の直円錐であり,湖底に生物 B の卵が産み付けられていて,単位面積当たり c 0 個で湖底に均一に分布している.卵の数は連続的な正の実数値をとると考える.次の問に答えよ.

(A-1)  0h 1 なる実数 h に対し,湖面からの深さが 0 から h までの湖底にある生物 B の卵の総数 N (h ) を求めよ.また,深さ h が微小変化した時の N (h ) の変化率 dN (h )d h を求めよ.

 生物 B は湖水を利用する上で有害であるため,湖面全体に紫外線照射装置を設置し,卵を死滅させたい. K を正の定数として湖面に垂直に単位面積当たり紫外線強度 K の一様な紫外線を照射し,卵を死滅させる.

 ところで一般に,この紫外線に垂直な面上では,単位面積当たりの卵の生存個数 n ( t) が経過時間 t に対して

dn (t )d t= -K n( t)

なる方程式に従って減少する.時刻 t =0 に紫外線照射を開始する.

(Aー2)  1 n( t) d n( t) dt =-K の両辺を t で積分することにより, n( t) n ( 0) を使って表せ.

 湖底面に紫外線を照射することを考えると,紫外線の方向と面の法線方向が一致しない.その場合,図2-1のように角度 θ をなすときは強度 K K | cosθ | に減少する.

(A-3) 湖水による紫外線強度の減衰はないとする.照射開始から経過時間 t 後の卵の生存個数は湖全体で何個か.

(A-4) 次に湖水による紫外線強度の減衰を考慮しよう.深さ h における紫外線強度が湖面における強度の 1 -h 倍であるとする.照射開始から経過時間 t 後の卵の生存個数は湖全体で何個か.

B 図2-2のような長方形 ABCD を考える.辺 AB の長さは 1 BC の長さは 2 とし,辺 DA の中点を O とする.

2014年東大後期【2】の図 2014年東大後期【2】の図

図2-2

図2-3

 点 O から玉を突く.玉の方向は線分 OA と反時計回りに 0 <θ π 2 なる角度 θ をなし,初速度は v >0 とする.時刻 t =0 に点 O から出発して,壁 AB または壁 BC に当たるまでの時刻 t における速度は v e- t であるとする.壁 AB または壁 BC に当たる時刻を t 1 としたとき,時刻 t >t1 において次に壁に当たるまでの玉の速度は 12 v e-t であるとする.以降壁に当たるごとに,壁に当たった直後の速度は,壁に当たる直前の速度の半分になるものとする.例えば 2 回目に壁に当たる時刻を t 2 とすると,時刻 t >t2 において 3 回目に当たるまでの玉の速度は 14 ve -t となる.

 以上において,玉の大きさは考えないものとする.玉は壁に当たるまでは直進するものとし,壁に当たると図2ー3のように入射角と反射角が等しい跳ね返りをするものとする.また玉がコーナーの A B C または D に到達した場合にはそれ以降玉は移動しないものとする.

 まず θ = π3 の場合を考える.

(Bー1) 玉が壁 BC に当たるような初速度 v の範囲を求めよ.

(Bー2) 玉が壁 DA に当たるような初速度 v の範囲を求めよ.

 次に m 2 以上の整数とし, θ (0 <θ π 2 ) tan θ= 1 m により定まる角度とする.この角度 θ で玉を突く場合を考える.

(Bー3) 初速度 v を十分大きくすれば玉が A または B に到達するような m を考える.このような m のうち最小のものを求めよ.

(Bー4) 玉が A または B に到達するための必要十分条件を m と初速度 v による条件式で表せ.

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